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「LRTとタウンハウス----都心再生のキーワード」
水野 雅男 北國総合研究所研究員 地域プランナー

97.10.24


(みずの まさお)東京工大理工学研究科社会工学専攻を修了後、シンクタンクの研究員などを経て平成5年、(有)水野雅男地域計画事務所を設立。北國総合研究所の21世紀城下町金沢再生構想策定委員
 金沢市の都心部(金沢城址を中心とする半径1.5kmの範囲)は、人口が著しく減少している。この20年間の推移を見ると、都心部では約2万8千人(約3割)減っているが、金沢市全体では逆に約5万9千人(約15%)増加している。これは、人口が都心部から郊外に拡散(スプロール)していることを物語っている。

 この都心部から郊外への市街地拡散の原因はいろいろあるが、交通対策と住宅政策の誤りに因るところが大きいと考える。裏を返せば、それらの施策を抜本的に転換すれば、都心を再生することができるのではないか。

 まず一番目の交通対策に関しては、これまでは自動車を主体とする交通計画であり、しかも交通混雑を解消するために道路を拡幅したり新設するなど、需要追随型の道路整備であった。結果として、渋滞が緩和されるどころか、余計に都心部などへの流入を促してしまっている。幅員の狭い裏通りでさえ自動車の通行を許してしまい、歩行者が落ちついて歩くことができなくなっている。こうした現象は、都心部での生活者の安全性と健康を脅かすことになり、彼らを郊外へ追いやってしまった。

 個人のモビリティ(移動性)の自由度を追い求めるあまり、自動車というプライベートな交通手段を手放し状態にしてきたが、本当にそれで良いのだろうか。都市のアイデンティティとも言うべき都心部を崩壊させ、騒音や大気汚染という環境悪化を招くという代償はあまりにも大きくはないだろうか。

 先進的な理念のもとに都市づくり(あるいは都市の再構築)を行っている欧米の各都市では、公共交通機関の抜本的な改革により都心の再生を図っている。なかでも、新型路面電車LRTの導入事例がかなり多く見られる。フランスのストラスブールでは、一度廃止した路面電車をLRTというかたちで復活させ、都心部への自動車の乗り入れを厳しく制限した結果、まちなかでの移動が安全で楽しくなり、都心の商店街の賑わいを取り戻すことに成功している。この都心は、古い街並みが残っており観光客が多数訪れる。人口は約25万人(都市圏人口は約50万人)であり、金沢に類似する点が多い。交通対策を、単に交通処理として行うのでなく、都市づくりの観点から土地利用と連動させて計画することが強く求められている。(金沢におけるLRTの具体的な提案は北國総研の自主研究レポート「21世紀金沢都心再生計画」を参照されたい)

 二番目の住宅政策は、まさにスプロール化の起爆剤であったといえないか。市街地周辺での土地区画整理事業による宅地開発や郊外での住宅団地整備が積極的に行われてきた結果、庭付き戸建て住宅を志望する市民らがこぞって郊外へ出ていった。農村部で広い敷地の中に住宅を建てて住むことになんら異議はないが、都心部に住んでいた住民が郊外で家を所有することにはいささか疑問を感じる。子供たちとすごしている時は、戸建ての住宅がふさわしいと思うが、子供が巣立って高齢になった時のことを考えているのだろうか。ショッピングはもちろんのこと、図書館や美術館などの文化施設に行く場合でも車に乗って行かねばならない。団地の中は年寄りばかりでコミュニティ活動がつまらない、というように不便さを強いられるような気がする。

 都市づくりの点から見ても、郊外に住宅がどんどん出ていくと、道路や上下水道などのインフラをむやみやたらにつくっていかねばならないという、経済的な非効率さがあるのではないだろうか。

 都心部に高密度に住まうことは、都市文化を享受しやすく、しかも高齢者や学生達のような交通弱者にとっては郊外に比べてかなり便利である。高齢者と若者など世代を越えたつきあいも生まれ、お互いにケアし合う関係を築くことができる。また、都市のインフラ整備も効率的である。都心居住のための基盤として、タウンハウス(集合住宅)を積極的につくっていくべきではなかろうか。このような住宅政策を展開するためには、固定資産税などの税制面の改善や開発制度の充実も同時に必要となると思われる。このタウンハウスについては、北國総研が今年度自主研究を行う予定である。

 経済全体が低成長になり、高負担を強いられる高齢化社会に突入しており、しかも地球環境の保護が叫ばれている今こそ、成長管理という概念を基盤とした持続可能な都市づくり(サスティナブル・シティ)を目指すべきであり、交通と住宅の抜本的な改革が必要である。
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