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色彩修復で金沢の都心再生を
山岸 政雄 金沢美術工芸大学教授 日本色彩学会副会長

96.08.28


(やまぎし まさお)1935年長岡市生まれ。金美術工芸大学産業美術学科卒、現在、同大学教授(視覚デザイン・色彩学)。日本色彩学会副会長、日本デザイン学会理事、金沢市都市景観審議会委員を務める。金沢市都市美文化賞をはじめ、大規模建物、車輛、環境施設の色彩計画で共同受賞多数。主な著書・作品に「伝統都市の空間論 金沢」(弘詢社、共著)、「日本の建造物−構造と景観」(朝倉書店、共著)。「JR七尾線電化車輛の色彩デザイン」などがある。
 表題のような概念と方法はまだ一般化していないのかもしれない。しかしこのことの必要性は次の理由で高まっていると思われる。ひとつは都心の空洞化対策として、もうひとつは世界都市を目指す金沢の魅力づけの大きな要因としてである。ここではドーナツ化現象で深刻化しつつある中心市街地の再生に、色彩情報がいかに大切かを提言したい。まず再生を必要とする都心の空洞化はなぜ起きたのか。最も大きな原因は急激な車社会の到来と、コンピューターの普及による都市の営み方の変化による。車は都市機能の直径を広げ、コンピューターはあらゆる物や事の境界を取り払い、都市とはなにかを自問する時間さえ惜しませた。その結果、今日まで連綿と集積された都市機能の順位や位置関係に不整合が起こり金沢も例外にならなかった。最も影響の大きいのは都市のイメージ変化である。人格が変わるとイメージも変わるように、イメージは都市の格調や快適さをも左右する生命線でもある。したがってこのような秩序を回復するためにも精緻で明快な再生システムの導入が急がれねばならない。そこで近年注目されているのが色彩修復による再生効果である。色彩に関わる光や眼、心理、芸術など広範な人間尺度が環境調整に役立つからである。

 もっとも、金沢には香林坊再開発やJR金沢駅前のホテル群のように、やわらかな茶系の色彩でまとめたすばらしい再生の経験がある。ことにJR金沢駅前の色彩によるイメージ形成は、20数年に及ぶ周到で忍耐強い施策の結果として金沢らしさを継承した。

 しかしながら重ねての心配は、日々建て替えられる住宅や商業、業務施設とその広告看板や公共施設の色彩の有様である。顔色を見て健康状態を判断するように都市固有の色彩検証と調和への努力はこれからが本番のようである。たとえば金沢西インターから市内へ入る沿道街路では、景観条例や屋外広告物条例を使った色彩整合の努力が町内をあげてなされその結果が注目されている。

 金沢の色は、黒い甍(いらか)、茶系統の木色(もくじき)と緑樹を基調色として、四季の花、雪景色、用水を流れる水の色、城下町の風情を彩る着物や食物、祭りなど色を愛でる折り目正しい市民の作法によって担保されてきた。今日的に言うなら色彩文化のソフトウェアがしっかりしていた。金色のベネツィア、灰色のパリ、白いヘルシンキのように明快な固有色で説明できる都市はそんなに多くはない。また固有の色彩イメージは金沢が期待するコンベンション(集会会議)都市を象徴する“もてなしの色”ともなる。したがって、いまこそ長い歴史に培われた色彩文化を都心再生の騎手にすべきと提言したい。
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